STORY

STORY 04

「ロングセラー商品」のバトンを繋ぐために。
商品の歴史、メーカーの想いの深さを理解し、
戦略的なデザインへと落とし込む。

商品のパッケージデザインの裏側には、いつも語り尽くせないほどの物語があります。それがロングセラー商品であれば、なおのこと。長く愛され続けているロングセラー商品のパッケージデザインをリニューアルすることは、商品自体はもちろん、メーカーの想いも含め、どれだけ深い部分にまで向き合うことができるかにかかっていると言えます。数々のプロジェクトを担当してきたデザイナー3名に、ロングセラー商品のデザインに携わる上で大切にしていることについて話を聞きました。
デザイナーH・M/デザイナーY・M/デザイナーI・S ※記事中ではイニシャルで表記しています。

「ロングセラー商品」とは何か、を考える。

プロモーションズライト(以下、PL)では「ロングセラー商品」のパッケージデザインのリニューアルを担当させていただくことも多いですが、デザイナーの皆さんは「ロングセラー商品」というものをどのように捉えていますか?

H:その言葉通りで、「長い期間売れている商品」ということに尽きますよね。

I:大げさかもしれないですが、僕はロングセラー商品って「インフラのような存在」とも言えると思うんです。日常の中にあるのが当たり前というか、消費者にとってなくてはならない存在になっているんですよね。

Y:そうやって求められ続けた「結果」として、ロングセラー商品と言われるようになる。一般的な定義では「10年以上に渡って売れ続けている商品」と言われますが、そこに至るまでにはメーカーさんの地道な努力をはじめ、市場の変化とか、競合商品への対策とか、見えないところにもいろいろな歴史が積み重ねられているんだなというのを、メーカーさんとの打合せの中で私たちデザイナーもすごく感じています。

H:パッケージデザインのリニューアルって、そういう歴史をしっかりと理解してバトンを引き継いでいくという重要な任務なんですよね。デザインのことだけを単体で考えるのではなく。だからパッケージのデザインがいいかどうかっていうのも、「結果」から評価されているだけだと思うんです。その商品が売れ続けるための戦略の1つがパッケージデザインという手段なわけですから。

「らしさ」を捉え、「新しさ」を盛り込む。バトンを繋いでいくデザインとは?

デザインを単体で考えるのではなく、商品の歴史を理解してバトンを引き継いでいく。「ロングセラー商品」のパッケージデザインをリニューアルするには、どんな仕事が行われていくんでしょうか?

I:ロングセラー商品って、長く売れているからといってずっと変わっていないわけではないんです。時代や市場の変化に合わせて、使う素材や製法を変えたり機能性を進化させたり、消費者に寄り添いながら選ばれ続けるためのイノベーションをし続けている。それを効果的に消費者へ伝えられるように、パッケージデザインもメンテナンスしていく、ということなんですよね。

H:それが繋がって繋がってのロングセラー。だからパッケージのデザインリニューアルって、そのバトンを受け取って走り続けるということ。次へと繋げることを大前提に。そういう歴史の一部に入っていくんだから、意図を持って、緻密に前のデザインを受け継いでいけるかどうか。その中で、細かなところに新たな提案を盛り込んで、走り続けられるための更新をする。なので、相当神経を使う仕事ではあります。

Y:オリエンの担当者さんと密に会話をしていくと、デザインリニューアルに関することだけでなく「開発の意図はこうです」というようなことも聞かせてくれますし、開発の方に直接話を伺うこともありますよね。パッケージのデザインって、そういうものを一緒に背負って、じゃあ今回はどんなデザインをすることがこの商品にとって意義のあるリニューアルなのか、そこを見つけ出すことが肝心。何を大事にしていて、何を残していきたいのか。何を古いと思い、どんな新しさを求めているのか。掘り下げながら何度も何度もお話を聞いていくうちに、その企業らしさみたいなものがだんだんと見えてくるんです。そこを捉えて、変化するならこういう方向性がいいのでは?とか、そのためにできる解決策は何か?ということを、デザインの知識や手法を用いて提案していきます。

I:その結果、大きくデザインが変わるパターンもあれば、どこが変わったのかわからないくらいの微細なリニューアルもある。でもそれって当然だと思うんです。リニューアルする目的も、商品が置かれている状況も、ターゲットも違うわけなので。1つの商品の中でも毎回違う課題と向き合っていますからね。

H:だから、メーカーさんの考えや想いをしっかりと深いところまで理解するかどうかが、ものすごく重要。どれだけの人がこの商品という船に乗って生きているかを想像しながら仕事をしないとだめ。ロングセラー商品のパッケージデザインを任せていただけるというのは、メーカーさんからの同じ船に乗る仲間としての「信頼の証」だと思うので、僕たちはその信頼にデザインとして何ができるかで応えていくんです。

変えたいのに、「変えられない」。その難題を解くためにとことんキャッチボールを重ねる。

歴史があればあるほど、「ロングセラー商品」のデザインは難易度が上がるのでしょうか?

H:そうですね。超ロングセラー商品の代表格でもある明治「ミルクチョコレート」のリニューアルをPLが初めて担当させていただいた時は、かなりその点に頭を悩ませましたね。

当時のデザインは、東京オリンピック(1964年)のシンボルマークも手掛けた偉大なデザイナー・亀倉雄策氏 によるもので、その時点で37年も続いていたラベルだったんです。そこからのリニューアルですから、プレッシャーも大きい反面、絶対にいい仕事をするぞという強い意気込みも感じていました。デザイナー総動員で、大きく変化させたデザイン案から、現状のものをディティールアップしてマイナーチェンジしたくらいの案まで、先方とのキャッチボールを重ねながら段階的にデザインしていって、気づけば100案以上に。だけど結局、メーカーさんから「デザインは変えられない」と言われてしまったんです。
※日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)初代会長。グッドデザイン賞のロゴや、1964年東京オリンピックのシンボルマーク、フジテレビジョンなどの企業CIをデザインした日本を代表するグラフィックデザイナー。

それはどうしてですか?

H:それこそ商品が持つ「歴史の重さ」だと思います。1926年に発売された商品で、その頃たくさんの会社が日本でチョコレートを売り出し始めました。当時贅沢品だったチョコレートが一般の人向けの存在になり、競合ひしめく中で、明治「ミルクチョコレート」は生き残ってきた。そして亀倉氏へとバトンが渡り、長きに渡ってこのパッケージで多くの人に愛され続けてきた。言わば、「歴史の継承の結果」であり、メーカーさんにとっては「自分たちのアイデンティティの象徴」でもある商品。だから、デザインを「変えられない」のは当たり前だったんです。

Y:歴史も深ければ、関わる人も多く、想いも深い。あちらこちらからたくさんの声が上がってくる。その1つ1つと向き合って道筋を見つけ出していくのが私たちの仕事ですから、大変ではあってもそれを経るからこそ辿りつけるものがあるんですよね。

H:オリエンの時には、明治のチョコレートのレシピを開発されている研究者の方までいらっしゃって。メーカーさんにしてみれば、商品は「自分の子ども」じゃないですか。子どもが大きく育ってくれるようにどうしたらいいだろうか、親として何をしてあげられるだろうかみたいな、ものすごく深い愛情を感じたんです。そして、やはり「うちの子にはうちの子の顔をしていてほしい」というこれまでのパッケージデザインへの愛着も。だからメーカーさんからの信頼って、それくらい重みのあることなんですよね。

歴史と愛情の深さ、それを一緒に背負ってどうリニューアルするかを考える。すごく難しい問題ですね…。

H:話を聞いて、デザイン提案をして、また意見を聞いて、デザイン案に反映して、そういうキャッチボールを本当にたくさん重ねたからこそ、「変えられない」というメーカーさんの想いを私たちも受け止めることができた。それでも、「何か新しさを見せたいからデザインリニューアルしたいんでしょ?」っていうこともわかっていたので、もどかしかったですね。デザインは変えられない、だけど商品はブラッシュアップされていっている姿を見せたい。その難題をどう解決するか。

そこでコピーライターとも話し合って、言葉のデザインを追加することにしたんです。そこで生まれたのが、「おいしさは進化する」というスローガン。さりげないけれどしっかりとメッセージが届くように、元のデザインのモノトーンに映える「赤」を選んで帯で添えて。これがその時の答えになりましたね。デザインを大きく変えなくても、ショルダーに帯でスローガンを入れるという「コピーとデザインの融合」によって、本当に伝えたかったことを成し遂げることができました。

その2~3年後に、再びリニューアルの機会がやってきましたが、その時のテーマは何だったんですか?

H:メーカーさんのCI変更に対応するためのリニューアルでした。「ミルクチョコレート」だけでなく、「ブラックチョコレート」や「ハイミルクチョコレート」も担当させていただくことになり、新しいCIを立たせながら、旧デザインも継承しているという絶妙なバランスでデザインを変えました。ヘビーユーザーが多い商品なので、このバランスの追求がポイントでしたね。印象はかなり変わりましたが、ユーザーにもすんなりと受け入れてもらうことができました。
そしてこれが、さらに明治というブランドを最大化するためのリニューアルへと繋がりました。アイテムごとに違うデザインをしていた「ブラックチョコレート」と「ハイミルクチョコレート」でも大きく「meiji」を掲げ、「ミルクチョコレート」のデザインに合わせて茶明治・黒明治・赤明治のような佇まいでシリーズ展開する方向にシフトしていきました。
ロングセラー商品のデザインリニューアルは、確かに特有の難しさがあります。でも僕は、デザイン案はできるだけふり幅が大きいものを出すようにしているんです。たくさんデザイン案を出して、結局変えられないこともあるけれど、そういうことを通じて、メーカーさんが本当に求めているものをすごく深いところまで一緒に追求していって、見つけて、それをどう解決するかっていうことを論理的に考えて、デザインに落とし込んで、また一緒に考える、ということが大切だから。簡単なことではないけれど、ロングセラー商品のバトンを受け継いでいくためには、このキャッチボールは永遠にやらなきゃいけないことなんじゃないかなと思います。

ブランディングと原点回帰。歴史を活かして、「らしさ」に磨きをかけていく。

「ブランドの最大化」というのも、パッケージデザインが担うとても大きな役割の1つですよね。そこで最も重要なのは、その「ブランドらしさ」をいかに捉えられるか。

Y:何度も何度もお話を聞かせていただきながら、こちらからも前のめりでたくさん質問させていただきますね。そうするうちに会話の中でその企業らしさというものが見えてくるんですけど、実はヒントはオリエンやミーティングの中だけにあるわけじゃないんです。
日東紅茶「デイリークラブ」のリニューアルを担当した時の話なのですが、会社を訪問した際にはいつも美味しい紅茶でおもてなししていただいて。「今日の紅茶はどこどこのこういう特徴がある茶葉で…」とか、その茶葉の魅力を引き出す作法で淹れてくださったりとか、職種に限らずどなたとお会いしても、紅茶そのものへの知識の深さや、日本初の国産ブランド紅茶を発売して紅茶を普及させてきた会社としての誇りや使命感みたいなものも感じられたんです。そういうところからも「企業らしさ」、それゆえの「ブランドらしさ」として大切にすべきことが研ぎ澄まされてきたりもします。

日東紅茶「デイリークラブ」も、1968年発売ととても長い歴史があります。リニューアルにあたっては、やはり制約は大きかったのでしょうか?

Y:どちらかと言うと、逆ですね。制約というより、歴史をいかに活かすか。「デイリークラブ」のリニューアルは2回担当させていただいているんですが、1回目の時は、メーカーさんが会社として大きな変革を遂げようとしているタイミングで。自分たちのアイデンティティを見つめ直して、ブランディングを大事にしよう!というのが大きなテーマでした。
それまでは商品ごとにそれぞれ全然違うデザインがあって、「日東紅茶とは」という「らしさ」みたいなものが希薄だったんです。だから「らしさ」を一緒に見つけていくためにたくさんお話を聞いていくと、「『黄色に赤』はうちのカラー」という気持ちがあって、それをすごく強く言いたいんだということがわかりました。さらに、ブランド力を強化するためにも売り場を「面で展開」したいというご希望があり、いろいろな商品にポットのアイコンを使って「デイリークラブ」の派生品みたいな感じでたくさん展開して、そこに「黄色×赤」も取り入れて、日東紅茶カラーの面積を増やしたいというのが大きな流れとしてありました。

I:確かに、面で展開するとブランドは強くなりますからね。

Y:なので制約というよりは、ブランドとしての強さを広げて育てていくために、1つ前のデザインを「整理」したという感じですね。新しさも取り入れながら。遠くから見てもわかる「黄色×赤」で売り場で大きな存在感を出しつつ、1つ1つの商品からもしっかりとロゴがワークするようにロゴのフォントをゴシック体に変更して調整したり。遠くからでもブランドを認識してもらうことができるよう「記号的なデザイン」にまとめることを重視しました。

2回目のリニューアルは「包材の変更」がきっかけだったと聞きました。包材が変わると、デザインとしてはどんな工夫が求められるんでしょうか?

H:包材の変更も、パッケージデザインを変更する要因としてよくありますよね。容量が変わったり、形状が変わったり、それに合わせた対応をしていくんですけど、ただ前のデザインをそのまま新しい包材に当て込んでいくわけではなくて。だって、包材を変えること自体にメーカーさんとしても理由がありますし、それが消費者にとってもプラスに感じてもらえるようにデザインでコミュニケーションしていくって、とても重要なことなんです。パッケージデザインのリニューアルで、何を新たに伝えることができるか。

Y:そうですね。選ばれ続ける商品としてバトンを繋ぐためにも、包材変更に対してメーカーさんがどんなことを心配されていて、その解決のためにどんな工夫をしているのかということは、デザインを考える上での軸にもなってきます。
「デイリークラブ」の場合は、企業としての環境への取り組みの一環として、プラスチックからすべて紙へと材質が変わるというものでした。これまでの「プラスチックのパッケージ」が消費者にとっては目印の1つになっていたので、包材の材質が変わるだけでも大きなインパクトがあります。さらに、包材変更に伴って、価格は据え置きだけれど容量が減ることになり…。メーカーとして、SDGsや全世界的な物価上昇など社会の変化にも対応していきながら、消費者にずっと愛されてきた商品を届け続けていくための努力も必要。「デイリークラブ」という名前にもあるように、日常に溶け込む商品であり続けたい。ずっと飲んでくれていた方のためにも、品質をアップさせることで、実質的な値上がりがマイナスにならないようにしたい。その想いから、茶葉の状態を見直したり、密封個包装にしたり、いろいろな気遣いの追加が行われていたんです。
だから、同じようなデザインで包材変更のインパクトを軽減するのではなく、ここはあえてデザインを大きく変えて、「変わった」ということがポジティブに伝わるデザインにしましょうという提案に至りました。

包材の変更をきっかけにメーカーさんから消費者への想いのブラッシュアップがあって、それも伝えられるデザインを追求したということですね。

Y:紅茶ってそもそもほっと一息つくときに飲むものだよね、とか。茶葉がふわっと広がりながら色づいていくものだよね、とか。そうしたところにも想いを巡らせて、紅茶ユーザーの気持ちに寄り添っていこうという「原点回帰」をデザインにも反映していきました。
ロゴのフォントは、記号的なゴシック体から、シンプルなスクリプト体にしてあたたかみや親しみを表現できるものに。背景の黄色も、「紅茶のゆらぎ」や「情緒感」みたいなものをより伝えられる色合いを求めて細かく調整して。湯気をイメージさせる模様にもこだわりました。日東紅茶さんらしい「紅茶の世界観」を大切にしたデザインとなりましたね。
「デイリークラブ」の2回のリニューアルは、いずれも「紅茶とは」「日東紅茶とは」というものをメーカーさんが振り返るタイミングだったのかなと思います。何を大事にしているかを一緒に見つめ直しながら、それぞれのリニューアルでの目的に合わせて丁寧にデザインに落とし込んでいったことで、歴史を活かして「らしさ」に磨きをかけていくことができたかなと思います。

アイデンティティの確立。ブランドの本質を立たせ、シリーズ全体でブランド力を高める。

ここまでの2つとは違って、マルサンアイ「ひとつ上の豆乳」シリーズの場合は、リニューアルでデザインが大きく変わりました。そこにはどんな意図があったんですか?

Y:豆乳市場も競争が激しくなっているので、売り場でいかに差別化をするかが商品の生き残りに直結してくるんですよね。デザインを大きく変えることで注目を集めるという考え方もありますが、このマルサンアイ「ひとつ上の豆乳」シリーズはそうではなくて。
「本当においしい豆乳を届けたい」という想いから誕生したシリーズで、豆乳のおいしさを極めるために製法はもちろん、豆乳に適した大豆を探索するところにまで強いこだわりを持たれています。だからこそ、「おいしい」という原点に立ち戻って、ブランドの本質で訴求していきたいというご要望からのリニューアルでした。

H:オリエンを聞いた時は、何となくブランドがないなという印象がありました。だけど、「ひとつ上の豆乳」っていうフレーズは「ブランド」だよねって。それでこの言葉を大きく扱ったデザインをたくさん提案していったんです。

Y:そうなんですよ。「ひとつ上の豆乳」ってすごくいいなと思ったんですけど、それまでのパッケージではあまり大事にされていなくて。なので、これをメインにしてブランドの価値を表現していくことにしました。豆乳のシズル感を持たせたグラフィックの上に「ひとつ上の豆乳」の文字を乗せて、アイデンティティとなるような形でデザインしました。文字色には「ひとつ上」という定義を凝縮させたロイヤルブルーを選択して。

H:ブランドカラーをシリーズ展開する時は、どの商品にもブランドカラーをメインに使う方法と、フレーバーごとにメインの色は変えてロゴなど一部にだけ共通でブランドカラーを持たせるという2つの方法があります。今回の場合は後者で、「ひとつ上の豆乳」というところにだけブランドカラーを持たせることにしました。

Y:その理由は、豆乳の場合、「無調整豆乳」を飲む人と、「フレーバータイプの豆乳飲料」を飲む人の層がある程度分かれているから。フレーバーの種類もたくさんあるので、一目で何味かがわかったほうがいいですし。だから結果として、全部をロイヤルブルーで統一する必要性がなかったんです。けれど、豆乳売り場にはいろいろなメーカーの様々な豆乳が所狭しと並んでいるので、その中できちんと「ひとつ上の豆乳」が目に留まって、「これが飲みたい!」と選んでもらえるように、シリーズとして面で展開して存在感も出していきたい。それらの要素を1つ1つ大事にしながら、「おいしい」という本質を立たせてシリーズでブランド力を高めていくために、結果的にデザインが大きく変わったという流れです。
でもどんなにロジックを持って取り組んでいたとしても、デザインを大きく変えるリニューアルはやはり勇気がいるものです。幸い、リニューアル後は前年よりも売上増という結果が出たということで、本当に良かったです。

市場の変化や、ブランドの進化…。あらゆる方向から商品と課題に向き合い、デザインを緻密にメンテナンスし続けていくことが大切。

ロングセラー商品にとって、市場の変化や競合という外的要件に対応するためにパッケージデザインを何度も何度も変えていくことは、必須でありながらも難しいことですよね。もう「その顔」で覚えられているところもあると思うので…。

H:確かに、歴史やブランドがあるがゆえに、大きなデザイン変更がしにくいところはあります。前のデザインを継承しながらも、時代ごとのニーズの変化や、競合商品、陳列スペースの状況など、その時々の環境に適応して選ばれ続けるためのデザインリニューアルですから、極めて論理的に消化して、さらにそれをデザインで実現していかないといけない。

I:ロングセラー商品においてもパッケージデザインの変化は、消費者にはわからない程度でもずっと行われていて、その都度テーマがあるんです。競合商品が増えてきて店頭で大量陳列されるようになれば、商品が持つ価値や魅力を見つめ直してそれをより訴求できるデザインが必要。複数商品でブランドとしてのカラー統一をして、陳列の中でインパクトを出したり。競合商品にはない機能性などの特徴があれば、そこに赤などポイントカラーを使って強調したり。素材や味わいにこだわりがあれば、そこから派生する抽象的なイメージをロジックを用いてグラフィックに落とし込んだり。ラインの細さや、余白のバランスまでも、戦略的に調整していく。そういった緻密なことを、毎回のテーマごとに私たちもデザイナーとして戦いながら取り組んでいます。

競合を気にしなくてもいい場合は、また考え方も変わってきますか?例えば、圧倒的なNo.1ブランドだったり、似たような商品が存在しないほど独自性のあるものだとどうでしょうか?

I:競合を意識する必要がない場合は、ブランドの「らしさ」を追求することに注力することが多いですね。メーカーさんとも定期的に「らしさ」を確認するためのミーティングをしています。あとは、商品の機能が進化したら、アイコンを入れるなどしてそれを訴求するためのデザインをしたり。商品は絶え間なく細やかなイノベーションを重ねて進化し続けているので、そのブランドにとって大事なところは残しながらデザインをブラッシュアップしていくことは大切です。

その時最も注目すべき「商品の価値」を突き詰めることから、デザインは始まる。だからこそ、メーカーの想いをどれだけ深く理解できるか。

ひと口に「ロングセラー商品のデザイン」と言っても、それぞれのリニューアルに異なる背景がある。それゆえに、1つ1つ丁寧にデザインでの応え方を見つけ出していく必要があるんですね。

Y:使う素材が変わったり機能性が追加されたことで商品自体の品質がアップすれば、それをより効果的に伝える必要がある。一方で、商品自体に大きな変化はなくても、市場や競合の状況に合わせて、その中で選ばれ続けるためのデザイン戦略も必要。1つ1つ課題も、解も違う。だから私たちはデザインだけを単体で考えるのではなく、リニューアルごとに最も訴求すべき「商品の価値」を突き詰めて、論理的にデザインに落とし込むことが重要だと考えています。

I:メーカーさんの想いや成し遂げたいこと、市場、競合、歴史、それゆえの制約など、あらゆる方向から考えて、掘り下げていく。その結果として、デザインを大きく変えることになったり、ロゴの一部やサイズを変えるだけで新しさを出したり、イラスト表現をものすごく細かく調整して商品の世界観を追求したり。目的を研ぎ澄まして、デザインのメンテナンスを繰り返していく。商品のバトンを繋いでいくためには、やるべきこと、やれることにゴールはないですから。

H:パッケージデザインというものは、担当者の方だけでなくその企業がみんなで抱えている課題に挑むということ。商品の歴史が長いほど、関わる人が多いほど、簡単にいくものではないことはわかっています。メーカーさんにも、いろいろな角度からいろいろな想いや考えがありますし、商品を売るには全国の営業の方の力も必要。だから、現場で戦っている営業の方にとっても武器になる話題を提供できるようにしたいんですよね。ふり幅の大きなデザインにして、営業先で紹介しやすくしたり。それができない場合でも、「こういう目的のためにこういう理論を用いてデザインしているんです」と営業トークができるように、プレゼンではロジックの説明もする。もちろんそのためだけではないけれど、「デザインの言語化」っていうのも非常に重要だと思いますね。

I:デザインロジックが商談の場で語れれば、武器の1つになりますもんね。それで商品が店頭にたくさん並べば、ブランドも強くなる。

H:だけどせっかく店頭に並んでも、売れなければ2週間も持たなかったりする。その厳しさも知っているから、パッケージデザインはそういうこととも向き合わなきゃいけない大変な仕事。だからこそ、メーカーさんと一緒に戦う覚悟でやっているんです。

Y:プレッシャーはもちろんありますが、その分やりがいも大きな仕事ですよね。

H:ロングセラー商品のような基幹商品は、私たちデザイナーにとっても持たなくなることが一番怖い。次のデザインでも、持たせなければ!と。だから、メーカーさんのお話を聞くだけでなく、こちらからも前のめりでたくさん質問していって、メーカーさんの想いを深いところまで理解する。本当にそれに尽きるなと思います。

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