STORY

STORY 03

チョコレートをカルチャーに。
明治がmeiji THE Chocolateにかけた想いに
デザインで併走する。〈前編〉

2014年に発売された明治のスペシャリティチョコレート。2代目で大きくリブランディングして世に広まった。さらに3代目、4代目と、まだまだ進化を続けるmeiji THE Chocolate。リブランディング当時を振り返りながら、現在進行形について語る。

「コンペにしない代わりに我々と心中してください」

まずはこの〈meiji THE Chocolate〉プロジェクトが、プロモーションズライトに依頼された経緯についてお聞かせください。

〈meiji THE Chocolate(以下、〈ザ・チョコ〉)は2014年に明治より発売されたスペシャリティチョコレートで、パッケージデザインをプロモーションズライト(以下、PL)が担当していました。発売から1年後のある日、明治のご担当者に呼ばれて打ち合わせに行きました。いつも通りの打ち合わせだろうと思い私一人で伺ったら、会議室に明治の人が6~7人座られていて…。何とも重々しい雰囲気だったんですね。
そこで、「〈ザ・チョコ〉をリブランディングします。コンペにしない代わりに我々と心中してください」と言われました。リブランディングへの想いを伺い、明治の皆さんの〈ザ・チョコ〉への並々ならぬ熱意を目の当たりにしました。

「心中」とは少々物騒な言葉に聞こえますが…?

確かに言葉にすると物騒ですが、全く「怖い」ニュアンスはありません(笑)。
そもそも、PLでは明治のロングセラー商品『ミルクチョコレート』のパッケージも担当していて、既に長いおつきあいがありました。「ミルクチョコレート」のような長年愛されている商品のデザインをさせて頂く中で、明治の皆さんの商品開発に対する姿勢・・特にチョコレートに対する想いにはいつも刺激を頂くんですね。ですから、私たちも明治の皆さんの期待を上回るご提案を!と毎回心掛けていました。
そうして積み上がった信頼関係があったからこそ「心中」という言葉が出たのかな、と。そこには「最後までずっと、私たちと一緒に走り続けてください」というご担当者の熱い気持ちが滲んでいるように感じました。
だから、打ち合わせが終わり明治のビルを出た瞬間「これは責任重大な案件だ」と再認識しました。会社に戻っていったん冷静になり、気持ちを整理したのを覚えています。

左:初代〈ザ・チョコ〉のパッケージ。カカオの品質感を全面に押し出したデザイン。
右:明治のスタンダードチョコレートシリーズ。明治ミルクチョコレートは2023年で発売97周年を迎えるロングセラー商品。
画像は2009年、明治のブランドマーク変更に伴い43年続いたパッケージを大きく刷新したデザイン。

「チョコレートの新しい文化」をつくる

“責任重大”だと“再認識”するくらいの、明治さんの“並々ならぬ熱意”についてお聞かせください。

「日本のチョコレート文化を変えていきたい」とお話しを受けました。
チョコレートの主原料であるカカオは、ワインで言うところのブドウのように産地や製法によって香味ががらりと変わる素材です。そんなカカオの面白さをお客様にも体感してもらいたい。チョコレートを「おやつ」から「大人の嗜好品」に変えていきたい、と。

〈ザ・チョコ〉で日本のチョコレートを新たに定義し、ひいてはムーブメントをつくるということでしょうか。とてもスケールの大きなお話ですね。

そうなんです。すでに日本で大きな市場を確立されている明治さん自ら「新しい文化」をつくろうとしている。そして、多くの人に体験してもらうためにはスーパーやコンビニなど、身近なところで手に取っていただける商品にしていこう、と。
ミルクチョコレートなどスタンダード商品を担当していたからこそかもしれませんが、明治さんの想いとその実現に向けたハードルの高さが、私にとっても目の前に迫ったというか。デザインとしてどう実現していくべきか。何としても納得いただけるデザインを提案しよう、相当な覚悟を持って取り組もう!と強く決意しました。

大きなビジョンですが、具体的なご依頼内容はどんなものだったのでしょうか?

「縦意匠で、外側はシンプル。だけど箱を開けたら『わぁ~っ!』と、ワクワクするような感じが欲しい」とお話をいただきました。

「縦意匠」という指定には、どんな意図があったのでしょう?

日本の板チョコは横型が主流ですが、チョコレート先進国の欧米では縦型の箱入りでソリッドなデザインのものが多く、チョコレートの品質自体も高い。まさに「大人の嗜好品」としてのチョコレート文化が浸透していて、明治さんとしても欧米におけるチョコレートという立ち位置を意識されていたのだと思います。

開けた時の「ワクワク感」とは?

「箱を開けたら中はワクワク」というのは、「こころ、晴れるチョコレート」というコンセプトの〈HAREL(ハレル)〉という商品が過去にありました。〈HAREL〉で表現したかったチョコレートを食べた時の楽しさ、満たされる気持ちといった“情緒性”と、初代〈ザ・チョコ〉のBean to Bar※だからできる、カカオへのこだわり…つまり“物質的価値”。この二つの魅力を兼ね備えた新しい世界観にリブランディングしたい。そのためのパッケージデザインをお願いします、というオーダーでした。
※Bean to Barとは、カカオ豆(BEAN)から板チョコレート(BAR)までを、一貫して手がけるスタイルのこと。厳選したカカオ豆を最大限に生かすため、作り手の想いで様々な工夫がされていることが特徴。(明治HPより抜粋)

新たなチョコレートの世界観を表すデザインとは?

新しいチョコレートの世界観は、どんな過程でどう探っていったのでしょうか?

当時の売場事情に着目してみると、スーパーやコンビニで売られているチョコレートのパッケージは、美味しさをわかりやすく伝えているものが殆どでした。例えば、チョコレートのトロリとしたシズル表現や「ザクザク食感!」のようなキャッチコピーを強い色で目立たせたり…。
そういった味のコンセプトが明快な商品が100円程度で買える売り場において、〈ザ・チョコ〉は「スペシャリティ・チョコレート」という価値を伝え、売り場で埋もれない、新しい顔つきで勝負していく必要がありました。

にぎやかな売り場で埋もれずに新機軸の価値を伝える。これに対する答えとは?

明治と協議した結果、たどり着いた答えは「〈ザ・チョコ〉でしかできない世界観だけを伝える」というものでした。あえてチョコレートシズルも、説明コピーも使用しないのです。〈ザ・チョコ〉誕生のストーリーや、カカオのスペックを、世界観…つまりグラフィック重視のパッケージデザインに振り切ろう。その佇まいこそが、情報の多いチョコレート売り場で目を引き、置いてあるだけでニュースになってくれるはずだと。

世界観の基本方針が決まりました。そこからどのように進めていったのでしょう?

「どのような世界観」が相応しいのかを見極めるには、それなりに大規模なデザイン検証が必要です。制作は社内コンペの形式をとり、性別・年齢・経験値も様々なデザイナー10名招集して行いました。
デザイナー達には、〈ザ・チョコ〉のストーリーとスペックをできる限り詳しく伝え、リブランディング後の「新しい世界観」はそれぞれの感性にゆだねてデザインワークを進めてもらいました。結果、上がってきたパッケージデザインはどれも斬新で、これまでのチョコレート売り場には存在しなかったものばかりでした。

初回プレゼンは”驚きの声”でざわめきが広がる

初回のデザインに対して、明治のご担当・社内関係者の方の反応はどんな感じだったのでしょう?

新しい市場に参入する、そのためにも新しい世界観を作る。これを正確に伝えるには、その質感までを再現しないといけないと思い、じつは初回デザインは全案ダミー(製品を模したもの)を作ったんです。目標とする完成形を再現したダミーで初回のプレゼンを行ったのですが、ご担当の方からは大変好評でした。しかしご担当以外の社内の方からは逆に「え?このデザイン…!?」といった反応で。理由は、既存の日本チョコレート市場のパッケージデザインの概念からあまりにも離れたデザインだったからです。

初回のプレゼンで提出されたパッケージデザインいろいろ。

そんな驚きの声が多かったという初回プレゼンの提案で、既に採用になったデザイン案がありますね。

はい、そうなんです。
カカオ産地ごとの香味の違い、そしてその面白さ・ワクワク感を、網羅できているデザインです。シンプルで統一された世界観に伝えるべきメッセージが見事に凝縮されており、素晴らしい!と思いました。

カカオの箔の柄がそれぞれ違っていますが、そのようにデザインした理由は?

もともと印刷に箔を使用する予定がありましたが、このデザインでは味によって変わる柄の部分に箔を使用したかったので、全て異なる箔型をつくるということは当然予算にも関わってきます。今までにない切り口だけど採用は難しいのでは?と思いました。

メーカーとしては難易度の高いデザインともいえますね。

ただ、提案前に修正したりボツにしたりするのはあまりにもったいないと思い、印刷上の懸念点も含めて正直に提案しました。また、この案はカカオのグラフィックによってコンセプトが表現されておりアイデンディディとして非常に重要なため、予算上厳しければこのデザインは断念すべき、ともお伝えしました。

社内の説得も大変だったかと思いますが、明治さんのまさに「熱意」ですね。

はい、本当に。ご担当の方からはのちに「初見で既に心の中で決めていました。これを社内で通すために頑張りました」と伺いました。実現には費用も工程もかかるこのデザインを、熱意を持って社内の難しい説得を懸命に続け、また、調査を重ねてくださった担当の方々には本当に頭が下がる想いでした。

ブレストから誕生したもの

外装に記載している味の名称も独特ですが、これも世界観を表すためのものでしょうか。

味の名称については、我々クリエイティブチームと明治のご担当が一緒になって考えました。コンフォートビターとか、ベルベットミルクなどといった名前が採用になっているのですが、明治の社内の会議室で完成した製品サンプルを実際に試食しながらイメージされるワードを思いつくままたくさん捻出していきました。チョコを食べては両社間で何度もブレストして、キーワードを出して。例えば「かろやか」というキーワードが出たら言い換えたら何か?擬人化したら何か?そこから組み合わせたら?とどんどん出して造語を作っていく、といったことを繰り返し行ったんです。最終段階の造語を選ぶ過程では、英語にしたときのわかりやすさ・響きが基準になりました。

試食しながらのブレスト、なんだか楽しそうですね(笑)

実際楽しかったですし、このブレストでインスピレーションを得てカカオの中の柄のグラフィックやカラーリングが生まれたものももちろんあって。例えば味がビターだとシャープな形の柄だったり、ミルクが入るとエッジが取れてやわらかくなったり。このような度重なるブレスト自体が、私たちにとってもすごく貴重な時間だったなと思います。

「開けたらワクワク」をお客様に体現していただけるよう、細部までこだわった。内装は外装のカカオ柄の全面デザインに。
3枚入りのチョコレート個包装は、開けた時のワクワク感につながるべく3枚ともすべて違う柄にした。

speaker
古瀨恭子 Kyoko Furuse
プロモーションズライト 専務取締役
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