STORY

たまご〈森のちから〉のパッケージ。マンガ家で食にまつわるエッセイの第一人者・東海林さだお氏のイラストと、たまごに対するこだわりの一文がなんとも印象的

STORY 01

たまごにユニークなキャラクター性を与え、
パッケージデザインからブランドへと
昇華させる

商品開発段階から携わったスーパーマーケットのプライベートブランド「森のちから」。ブランディング全般を担当し、パッケージには東海林さだお氏のイラストを起用しインパクトのあるデザインに。2006年秋の発売以来総販売数は一億二千万パッケージ以上。たまごにして十億個以上の販売ということになり、地域限定PBとしてこれは異例の数字となりました。

高いハードルを超えて誕生した、たまご「森のちから」。

プロジェクトの経緯について教えてください。

クライアントは東海シジシーさん。そちらから、たまごのプライベートブランド(以下PB)を作ろう、というお話を頂きました。
東海シジシーは、東海地方のスーパーさんが複数集り共同仕入れや共同販促を行っている協業組織です。東海地区ならではのPBはいくつもありますが、たまごの大型PBとなると、質はもちろん生産・流通・販売など商品化するにあたって越えるべき高い課題がいくつもありました。そんな中、東海シジシーの加盟企業では、質の高いたまごを安定的に供給したいという願いを持っておられました。東海シジシーの社長はいつも「たまごというのは食のインフラのようなもの。特別な商品」とおっしゃっていました。管理・流通のクオリティすべてが高次元、かつ価格帯も非常に安定したたまご、それが〈森のちから〉で実現しました。

どの店でも主力商品となり得る商品そのものが持つ魅力をきちんと伝えたい、長く愛される商品にしていきたい、というのがプロジェクトメンバーの総意でした。そして、クライアントの非常に気持ちの入ったプロジェクトということが一番大きいのですが、東海シジシーの「みんなでやっていこう、みんなで作ろう、みんなで考えよう」という協力の心が〈森のちから〉というネーミングの「ちから」の部分に込められているんじゃないだろうか、とも感じていて。それらすべてに全力でお応えしよう!という強い気持ちと責任感がありました。

パッケージデザインの最適解を求めて

日本のたまごは品質が良いことで広く知られていますが、その中でどう差別化しようと考えましたか?

伊賀にある農場見学にもいきました。そこで見たのが、たまごの製造では珍しいトレーサビリティの導入・パック詰めまで人の手がほとんど触れない完全オートマチックの技術が適用されたり、チルド輸送で管理するシステムが導入された、当時としては他に類を見ないほど徹底管理されている、おいしさを含め高品質のたまごだったのです。

一般にたまご売り場においては、例えば農協が出しているものがあれば○○農場、平飼いたまご、栄養素を訴求したもの……等々さまざまな商品が並んでいます。
でもそこで思ったのが、たまごってキャラクター性がないな、と。お客様がこのたまごじゃなきゃ絶対に欲しくないとか、このたまごだからこのお店に買いに来た、という話もあまり聞いたことがなかった。しかし当然ながらおいしさ、品質、安全性……と、ひとつひとつこだわって作られています。それを最も効果的に伝えることができ、かつ今までどこにもなかったパッケージを作りたいなという想いで、まず強いシンボル、キャラクターを設定するというのが良いのではないか、と考えました。

キービジュアルとなっている東海林さだおさんのイラスト(マンガ家でエッセイスト)が非常に印象的です。

これまでどこにもなかったパッケージを作りたいなという想いから発想をスタートさせました。東海林さだおさんといえば、食のエッセイの第一人者、大変な人気を誇る方です。たまごかけご飯が大好物でらっしゃるということは以前から著書でも知っていましたし、朝刊の4コママンガで市井の人の些細で心がなごむような小さな幸せについて度々言及しています。
たまごというのは日常そのものであり、日々色々な楽しみ方ができるもの。
これらのことから東海林さんのイラストとメッセージをコミュニケーションに使いたい。
シズル感ではなくたまごの持つ魅力が非常にスピード感を持って広く伝わるような、かつ後に長く残っていくようなイメージを感じたので、クライアントに東海林さんの起用を提案してみたんです。

東海林さんといえば、プロモーションズライトの関連会社であるライトパブリシティに、イラストレーターの和田誠さんがかつていらっしゃいましたよね? 東海林さんの著書の装丁を多く手掛けられた……。

そうなんですよ。依頼の際、その話を東海林さんにしたところ、非常に心を開いてくださって。東海林さんは今までパッケージに関わられたことがほとんどなかったところ、快く引き受けて下さる幸運もありました。

キービジュアルを作っていく上で最も配慮されたのはどんなところですか?

〈森のちから〉は通常のたまごよりも黄身が濃く、赤みがかったオレンジ色をしているのが特徴の1つです。このたまごそのものを表す色合いと、前述したような東海林さんの作品が持つイメージを最大限うまく活かすレイアウト・書体の使い方には、相当こだわり納得ゆくまでやり直しを繰り返しましたね。
デザインの特徴で言うと、パッケージの真ん中には東海林さんの著作の中にある文言がそのまま、けっこうな長文で入っています。たまごが持つ底力をズバリ言い当てた名文です。こちらを読んで納得して頂いたり、ふっと和んで頂いたりして〈森のちから〉のファンが一人でも増えてほしい。やがてそれがブランドとして大きく育つ足掛かりの一つになってほしい、という我々の想いも込めています。

じつはパッケージデザインというのは制約が多く、クリエイティブの自由度はとても低いことが常です。クライアントの考え、思想、企画意図等が複雑に絡み、難解に組み合わさったパズルのような状態でオーダーされるので、最適解を出すためにはアート的なセンスよりもむしろロジックが不可欠。そこから、社会にコミュニケートするためのアイデンティティの伝え方までを探ってゆく。それらはデザイナーやプロデューサーが真剣に、ていねいに製品と向き合うことで生まれます。

ただ、本件においてはクライアントの方からデザインに関して一切注文がなくて。我々の考え方を活かしたデザインをそのまま採用して頂けました。そのように信頼して頂けたこともあり、我々が本当にベストだと思うパッケージデザインに最後までこだわり続けることができました。

〈森のちから〉の10周年キャンペーン。まずはスーパーなどの店頭販売の支援からスタートし、その後ほかの商品に展開されてゆく。キャンペーンでは、ペイントバスを走らせ各地で広く認知させた。10周年記念ブックには東海林さんの貴重なオリジナルたまごエッセイも掲載。

たまご加工食品などのライナップが拡充し、ブランドとして広がった

そうして徹底的に考え抜いたパッケージデザインが完成したわけですね。〈肝いり〉のPB商品でしたが、東海シジシーの加盟企業さんへの事前説明などあったのでしょうか?

発売決定の数か月前にグループ企業さんに対しお披露目会を行い、そこでデザインを実際に見てもらいました。反響は上々で、「見たことない」「おもしろいね」という反応を頂いたことを覚えています。加盟企業さんに〈森のちから〉を気に入って頂いて導入してもらうべく、農場見学会やたまごかけご飯大会を開催したり、特別イベントとして落語家の柳家小三治師匠をお呼びしました。名人・小三治師匠に「たまごかけご飯のまくら(本編に入る前の導入部分)を。」とお願いし、実演して頂いたら地元の大きな話題になりました。

発売後、〈森のちからブランド〉として広がりましたね。

そうですね。〈森のちから〉は直近のデータ(2022.1.22)で、2006年秋の発売以来一億二千万パッケージくらい売れています。たまごにして十億個以上の販売ということになるのですが、地域限定PBとしてこれは異例の数字です。
〈森のちからブランド〉としては、「きら星」というたまごや、たまご加工食品などラインナップが拡充し続けています。[母体のスーパーのPB商品]としてブランド展開されることはよくありますが、〈森のちから〉は、1つの商品からPB商品が展開されています。〈森のちから〉がいかにブランドとして育つことができたかということです。
10周年を記念するキャンペーンでは東海林さんのイラスト全面のペイントバスも走ったのですが、それは見ていて非常に感慨深いものがありましたね。10周年記念キャンペーン以降も、規模は違えどもキャンペーンは都度実施されています。

地域限定の、1つのPB商品でキャンペーンが実施されること自体が異例だと思いますが、ここまで愛される商品になったのはなぜだと思います?

各加盟企業さんが一生懸命思いを込めて〈森のちから〉を売ってくれたこと、そしてもちろん質が良かったこと、その質の良さがお客様に確実に伝わったことが大きいのではないでしょうか。それらがナショナルブランド商品並みの認知となり、東海シジシーの長く愛されるブランドとして育っているのかな、と。その一端を担え、やりがいのあるプロジェクトだったなと感じています。

〈森のちから〉から派生したさまざまな商品。〈森のちから〉が人気を博し、ブランドを確立したことが、たまご豆腐、茶碗蒸し、温泉たまごなどといった他商品の派生へと繋がった
speaker
松永忠浩 Tadahiro Matsunaga
プロモーションズライト代表取締役社長
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